罪と監獄のロンドン

「倫敦路地裏犯科帳～イギリス裏社会と怪盗ジャック・シェパード（著・クリストファー・ヒバート、訳・山本雅男、発行・東洋書林）」という本は、１８世紀前半のイギリスがいかに狂った社会であったかを、当のイギリス人の歴史家が暴いてゆく傑作でしたが、本書を読むにつけ、ジャック・シェパードが生きた時代から１５０年以上経ったにも拘らず、こいつら科学技術以外にはまったく進歩していなかったんだなぁと、呆れてしまうやら気が滅入るやら、大変素晴らしい本でした。本書はそのタイトルにあるように、罪を犯して監獄へ行ったらどうなるのか？という本なのですが、監獄以前に、事件発生の第１章からアクセル全開で、出所する第１４章までノンストップでぶっちぎりの内容です。しかもこれが全て真実なのだから堪りません。ちょっと妻がミスしただけで、その妻をフルボッコにして殺す夫→無罪欲求不満に陥り、家族に煮えたぎる鍋のお湯をぶっかけた父→一週間の禁固刑夫の義足を引き外してその夫を殴り飛ばす、泥酔した妻→わずかばかりの罰金か、五日間の禁固刑の選択裁判を自らのショータイムと勘違いしてはしゃぎすぎた女→矯正施設行き・・・犯した罪の中身もぶっ飛んでいますが、裁判の判決もそれに負けず劣らずぶっ飛びすぎです。運良く矯正施設へ行ったとしても、事態は何も変わらず、ド直球で監獄へ行こうものなら、待ち受けているのは「北斗の拳」や「バイオレンスジャック」もかくやという世界。こんな社会では子供たちが犯罪に手を染めない方がおかしな話で、本書は別に１９世紀末のイギリス犯罪白書ではないのに、膨大な数の少年犯罪リストを見せられてしまいます。また、本書は当時の挿し絵がふんだんに用いれられているのですが、何よりも数多くの写真が掲載されているのが嬉しいやら悲しいやら。というのも、当時の社会状況が百万の文言よりも一枚の写真を見るだけで瞬時に理解できてしまい、あまりにもグロすぎてだんだんと見るのが嫌になってしまうほどでした（ただし、挿し絵のほうも写真に負けず劣らずグロい。男も女も、老いも若きも血まみれか傷だらけばっか。そうでない場合は、大抵の登場人物の目がイっている）。本書は、イギリスというなんだか無条件に凄いと思っていた国が、あらゆる意味で凄かったということがわかる一冊です。「ヨーロッパ的なるもの」の幻想を打ち砕く、「近代化などどこ吹く風」のイギリスの真の姿が死ぬほど楽しめる本。個人的には、読んでいてだんだんと気持ちが悪くなってしまいましたが、そりゃ「人権」とかが浸透するはずだわ、と痛感させられる本です。かなりオススメ。このレビューが参考になれば幸いです。(*^ω^*)