今いる場所で突き抜けろ! ――強みに気づいて自由に働く4つのルール

■全体の感想総じて、筆者の人生観が強く滲んだ主張と事例紹介であり、一つの考え方としては参考になる部分もあるが、よくよく読むと当然のことしか書かれておらず、筆者の自己満足・正当化のための書籍。■概要おおよそ一般に言われている、「好きなことを探しなさい」というテーマに対して、「好きなことではなく、できること、キャリアを大事にしたほうがいい」という主張を証明していく形式で書かれている。「キャリア、スキルを大事に」という主張は当たり前であるが、多くの自己啓発書では、やりたいことを追うべき、という主旨が多いため斬新な主張に映る。そうした主張を支えるように・やりたいことを追って不慣れなことをした結果挫折し、悲惨な境遇となった人・スキル・キャリアを重ねて成功した人の数人の事例を紹介しながら論理を展開する。■感想自分の利益よりも利他を考えたり、自分のやるべきことに集中するほうが良い、という成功哲学もあり、それに通じる部分もあるため、なるほど、と思いながら読んでいた。が、最後の章を読んで唖然とした。この筆者、高校生の頃から好き勝手やって金を稼いで、今まで楽しく暮らし、成績も優秀だったと書き始める。筆者は特にミッションややりがいを感じたことはなかったが、高校から大学くらいまで楽しく暮らせていたらしい。そうした中、回りはやりたいことを探したり、理想の職について考えている人が多いが、それを冷めた目で見ていたというのだ。賢く立ち回ってそれなりに楽しく生きてきたが、自分の人生を賭けれるようなものを見つけられなかったということではないのか？そのくせ、自分のやりがいを探したり考えたりということで悩んだということも書かれておらず、「ガールフレンドの近くにいたいから」という理由で進路を選んだと書いている。キャリアが聞いて呆れる。この時点で、ここまで読んできたことの説得力が消えた。なんのことはない、それまでさんざん語ってきた「キャリア資本」とか「やりたいことは見つからなくて当然」、「スキルを身に着けて突き抜けろ」などという主張はすべて自分の人生を正当化するために書いていることであり、要するに自分の生き方を擁護しているにすぎない。最後に、効率的な時間の使い方やハック的なことがわずかに紹介されているが、本筋のキャリアの話とは関係なく、単に言いたいことを脈絡もなく書いただけにしか思えない。これも自己満足っぽい感じがしてイラッとする。もともと仕事に悩んでいた人が失敗しながら、「やりたいことを追ってうまくいかなかったので、できることからコツコツやり、キャリアを大事にしたら成功しました」とかだったら説得力はある。あるいは、「子供の頃からやりたいことがあり、コツコツとそれに向けたスキルとキャリアを積み重ねてきた」というのでも説得力はあっただろう。だがそういう人生ではなく、最初から自分の主張は決まっており、それを言いたいだけなのだ。単純に自分の仕事が天職かどうか自信がないし、今までそう思い込めたものが無く、だけど世間的には「好きなことを仕事にしよう」という主張が多くて、それに苛立ってこうしたことを書いただけのように見える。そういう目でもう一度最初から見ると、事例も自分の主張に合致するものばかりピックアップしているように見える。・「やりたいことを追って失敗した」という例で紹介されている人について単純に準備不足だったり、あまりに違う専門外のことをおった結果であり、ある意味当然。だけど、こうした人だってこの失敗を糧にして続ければ、うまくいく可能性だってあるではないか。それに、意図的かどうかわからないが、やりたいことを追ってうまく行った人を全く取り上げていない。・逆に、「キャリアを大事にした」という例の人だって、そもそも興味があったりやりたいことだったからそれだけ長く準備したり続けれたのであって、「やりたいことを追ってキャリア、スキルを磨いた」人でもある。つまり紹介事例が筆者の意図したものだけだし、そもそも論理を支えるような事例ではない。それに統計的なアプローチを取ったりしていないため、冷静に考えると全く説得力がない。(よく見ると、成功事例も失敗事例もわずか数人の事例しかない)要するに、この本には「あまりに専門外だったり、準備が少ないとうまくいかない可能性のほうが高いし苦労するよ」という程度のことしか書かれていない。（やりたいこと、実現したいことのためにスキルを磨いたり、キャリアを積んだり、挑戦を繰り返すのは当然だからだ）冷静に考えると、仕事と満足度などはキャリアアドバイザーとか、そういう人のほうが詳しいはずだし、統計的データも持っているはずだが、そうした人たちにインタビューしたり、資料を提示したりとかは全く無い。筆者が紹介しているのは、変わったことをした著名人だったり、インタビューしたくなるような変わった経歴の人ばかりだ。他の海外翻訳本では、いろいろな実験結果の紹介とか、検証の結果何割の人がそうなったとか、そうした証拠事例が出ているものなだが、この本ではほぼ無い。総じて、筆者の人生観が強く滲んだ主張と事例紹介であり、一つの考え方としては参考になる部分もあるが、よくよく読むと当然のことしか書かれていない筆者の自己満足、正当化のための書籍。この本は、「大学くらいまでうまく生きてきたけど、その後の進路で少し悩んで、ちょうど時間もあって色んな人(自分の興味を持つような)にインタビューして、自分の生き方と主張に合った人を見つけれたから、それを紹介するね。きっとみんなもこれで幸せになるはずだよね」という本である。普通こういうレビューは書かないのですが、さも正当な理論であるかのように装って出版を私物化・自己満足化しているのが、単に役に立たない本を読まされるより腹が立った。著名人が最初から自伝という体で出す本ならファンの人だけが読むのだからいいのだが、何かを得ようとして読む人がこうした筆者の自己満足体験を読ませられるのはたまったものではない。